美奈川護というペンネームにキーパーズというタイトルがいかにもな「ラノベ」感を出していて、正直どうかなと思っていたのだが、蓋を開けてみれば地に足のついた動物もの小説であった。うん、これならいける。ラノベ修行者に優しいラノベだ!
ヒロインの理央が小学生にしか見えない大人…いわゆる合法ロリで、不思議ちゃんで、主人公・ハルをあれこれ振り回す、というラノベ定型をしっかり踏襲している。読むたび思うのだが、このパターンってそれほどラノベ読者からの支持を得ているんだろうか?非ラノベ読みからしてもはっきり言ってもう飽き飽きなんだが、諸兄はそんなにロリっ子がいいのか??
それと、やや暴力的で言葉遣いの粗いツンデレ美人…これももう食傷気味!
さておき、理央が不思議ちゃんである所以は、動物と会話できるという彼女の異能に端を発している。
ソロモンの指輪という伝説になぞらえたその能力と、動物園での飼育業務を意味づける哲学は相反するものだ。この対比がもう少し深く掘り下げられていればよかったのだが、どうも前者が都合の良いチート能力としてしか機能していないのが惜しいな、と思った。
何を考えているのかわからない動物たちの声が理央によって代弁されるのが物語のクライマックスなのだけれど、その演出を寒いと感じるか感動的と感じるかは個人差だろうなあ。
全体の構成は、ハルの周りの飼育員とその担当動物にそれぞれスポットを当てていくという連作短編。一話一話の完成度は非常に高い。思わず動物園に行きたくなってしまうほど、園内で飼育される動物の生を豊かに描いている。
何かの新書で、そもそもzooはzoologyに即する学術的研究を目的とした性質を持つものであったが、日本語で動物「園」と訳されたことで娯楽施設としての在り方が求められるようになってしまった、という話を読んだことがある。
確かに、リンゲルナッツも「動物園の麒麟」で動物園を文字通りの檻だと解釈しているし、閉じ込められてかわいそうという気持ちが湧くのにも一理ある。
しかし、この作品はそういうセンチメンタリズムと一線を画し、動物園の社会的責任を主張している。そして、その冷静さの裏に、アムールヒョウに惚れぬいているハルを筆頭に、登場人物たちの動物への強い愛情が描かれている。このバランスが非常に優れているので、恐らく動物園必要派も動物園かわいそう派もどちらも快く読めるだろうと思う。
こういった、何かに肩入れしすぎない視点で語られる物語はただそれだけで好感度が高い。
理央は何者なのか、三園はなぜ碧山を去ったのか、等の全体を通して解かれていく謎要素にはそれほどおもしろさを覚えなかった。
しかし、動物飼育のあるべき姿の模索というテーマが、アムールヒョウという孤高の存在と照会されながら最後までぶれずに一貫されており、読み終わったあとの満足感は充分。
なんだかシートン動物記やジェラルド・デュレル、日高敏隆あたりを読みたくなってしまった。