和田竜 『のぼうの城(上)』 小学館文庫、2010年

のぼうの城
読了:2014年5月29日

単行本が刊行された時、おもしろそうだけどオノナツメだしなんかちょっと胡散臭げだなあと思い、文庫本が刊行された時、結構話題になってるけど大衆受けしてるってことは軽めなんだろうなあと思い、結局上巻だけ買って四年間も積んでいた。
まあどうせアイディア勝負の一発屋だろう等と散々失礼千万な偏見で見ていた和田竜は、今やすっかり書けば売れる人気作家になり、この作品も野村萬斎で実写化と相成った。
つくつく流行りを見通す目のない本読みだなあと実感するばかりである。

読み始めての感想は、思ったよりもきちんと書きこまれている、ということ。
もっとカジュアルな時代劇だと思っていたのだが、文章にいぶし銀の厚みこそなけれ、どうしてなかなか雰囲気がある。幅広い層から支持を得ているのが納得の筆致だった。

ただ、小学館文庫のデザインを考えれば仕方なかったのかもしれないが、この小説を上下巻に分けたのは明らかな失敗である。
おもしろくなるだろうなという気配は濃厚だ。
登場人物たちは、秀吉サイドも長親サイドもその芯をとらえるような描かれ方でいきいきと動いている。実際の手記を引用してみたり結末を先に提示したうえで話を進めてみたり、といった司馬遼太郎的時代劇の手法もこなれている。
しかし、それらはすべて城攻めという一大イベントのお膳立てに過ぎない。つまりこの上巻は一冊まるごと導入なのである。この構成によって高まるフラストレーションはなかなか。
読んでも読んでも肝心なところがまだはるか遠くにしか見えてこないというもどかしさは、テレビ番組でやたらと頻繁に入るCMと同様、結局モチベーションを下げてしまうものだと思う。これは、どう考えても一気読みすべき作品だ。

上巻が驚くほど静かな展開だったので下巻には怒涛のダイナミズムを期待してしまうが果たして。