旦野あか里 『サマードレス』 新風舎文庫、2006年

読了:2014年9月30日

都内の図書館にすらほぼ所蔵がなく、古本でも入手困難な一冊を再開一発目に選んでしまった。
確か「おすすめの百合小説」というテーマのブログ記事で存在を知った一冊。
美しい四十女が、鎌倉の別荘で毛色の違う年下の男女二人と三角関係に陥るというなかなか燃える設定なのだけれど、150ページの短さではその設定の良さを出しきれなかったようだ。
本書でのデビュー後、一作しか発表していないという経歴からも推し量れるが、作品からは旦野の作家としての確かな力量を感じとることはできなかった。

主人公・未樹が、上司との惰性的な不倫発覚によって仕事を失うところから物語は始まる。
男はもうこりごりという未樹だが、彼女の男性不信はそもそも夫によるところが大きい。
この夫、恋愛小説における最優秀クズ野郎賞があれば真っ先にノミネートしたくなるくらい、クズいのだ。
結婚後数年で愛人を作り、彼女が妊娠・流産すると捨て、女は面倒だからと男と付き合い彼を夫婦の自宅に同居させ(『きらきらひかる』でもその一線は守られていたというのに!)彼が交通事故で障害者になった途端見舞いにも行かず捨て、その後は人間に懲りて部屋のクローゼットで茸栽培を始める。
自分のプライドがすべての拠り所で、未樹の不倫後も離婚しない。
この夫の最低っぷりが、新しい出会いとのコントラストを引き立てる役割を果たしていればいいのだが、寧ろ夫のことが悪しざまに描かれれば描かれるほど、未樹本人の魅力が揺らいでいくというのがこの作品の欠点だと思う。
未樹自身が夫と同じぐらい冷淡だった、という説明で済ませてしまうのならば、胸糞悪いエピソードをこれほど詰め込まなくてもよかったのでは。

夫から逃げるように鎌倉で暮らし始めた未樹は、有子と圭介という一回り年下の二人と出会う。
静謐な別荘の空間に、動的な有子と静的な圭介がそれぞれ侵入し、未樹の心を動かしていく。
このあたりは、官能にいくかいかないかのギリギリな感じと、有子と圭介どっちにいくんだ!?という三角関係ものおなじみの焦らしがうまく組み合わされていて、楽しんで読めた。
しかし、中盤からの展開がどうにもちぐはぐなのだ。
未樹は突然「男なんてヤダヤダ」と言い出し、圭介は「それでも愛してる」と言い出し、有子はあっさりセックスに応じる。
え?なんで?と思っている間に未樹と有子はラブラブになり、圭介がヤンデレ化していき、嘘だろ!?という程投げやりなエンドへ。
圭介の告白と未樹の驚きだけで事の真相が語られていく終盤は、まさに2時間ドラマの崖シーンそのもので、工夫もなにもない。
サスペンスというにはあまりにもお粗末。恋愛小説というにはあまりにも中途半端。官能小説というには色気不足。
結局何が言いたかったんだ…というもやもやだけが残る終わり方だった。

随所に現れるリリカルな表現は結構好きだ。

男のささくれた指先が、憂いを知らないこの身体の深みに向かって旅することを許されるだなんて。そこには、平凡でつまらない男を驚喜させるものなど、何もないのに。

しかし、他の地の文が至って平凡であるが故に、この詩的さがどうも浮きだってしまっている。

未樹の心理描写は真に迫っていて、なかなか興味深い主人公であるにも関わらず、こんな微妙な作品に終わってしまったのが実に惜しい。
百合小説、やっぱりまだまだ発展途上だなあ。